大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和48年(ヨ)545号 決定 1973年12月20日

申請人 徳水株式会社

右代表者代表取締役 徳島喜太郎

申請人 徳島喜太郎

右両名代理人弁護士 山本彦助

同 奥田繁

被申請人 日通不動産株式会社

右代表者代表取締役 田所芳蔵

被申請人 佐藤工業株式会社

右代表者代表取締役 佐藤欣治

右両名代理人弁護士 山口定男

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

第一  本件申請の趣旨および理由は別紙一のとおりであり、これに対する被申請人らの答弁並びにその主張は別紙二のとおりである。

第二  当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実および本件全疎明資料を総合すると次の事実が認められる。

1  申請人徳水株式会社(以下申請人会社という)は別紙物件目録一記載の土地(以下本件土地という)の北西側に別紙物件目録二記載の(1)の土地を所有し、同地上に鉄筋コンクリートブロック造陸屋根三階建の寄宿舎(昭和三八年四月三〇日に新築され昭和四七年一一月一〇日に変更増築された)を所有し現在右寄宿舎には申請人会社社員二四名と寮母吉良マサが居住していること(なお在寮社員には午前八時から午後五時までの勤務者だけでなく夜勤者もいる)。申請人徳島喜太郎(以下申請人徳島という)は本件土地の西側に別紙物件目録二記載の(2)の土地を所有し、右土地上に鉄筋コンクリートブロック造陸屋根二階建の居宅を所有し、右建物は昭和三八年四月三〇日に新築されたものであり、同建物にはそのころから現在まで申請人徳島とその家族らが居住していること。被申請人佐藤工業株式会社(以下被申請人佐藤工業という)は本件土地に鉄筋コンクリート造陸屋根七階建(名称は西公園マンション)の建物(以下本件マンションという)の建築工事を施行しているものであり、被申請人日通不動産株式会社(以下被申請人日通不動産という)は本件土地を所有し、本件マンション分譲の総括管理をしている。

2  本件マンションと申請人らの建物との位置および距離、高度差については別紙図面のとおりである。本件マンションは鉄筋コンクリート造陸屋根七階建の予定であり、これが完成するとその高さはおよそ二〇メートル(塔屋も含めるとおよそ二七メートル)であり、建築面積は五六三・六三平方メートル、建築延面積は三、九五三・八七平方メートルであって、建ぺい率はおよそ七〇パーセント、容積率はおよそ四九〇パーセントになる。

3(一)  被申請人佐藤工業が本件マンションの建築工事をする以前は本件土地上には木造二階建の建物が存していたが、申請人らの各建物に注ぐ日照に対する障害物は存在しなかったので申請人らは従前終日、日照の利益を享受してきた。しかし本件マンションが完成することにより、申請人らの建物に対する日照が年間を通じて太陽の南中高度が最も低い冬至において次のとおり遮ぎられることとなる。

申請人会社所有の寄宿舎においては午前九時の時点では建物全体が日蔭であり、午前一〇時の時点では日蔭部分が右建物の五分の四程度(西側の五分の一程度の部分に日照がある)になり、午前一一時の時点の日蔭部分は右建物の東側五分の一程度となり、午前一一時三〇分以降は右建物全体が完全に日照がある。

一方申請人徳島の居住する建物においては同建物が南向であるところ、午前九時の時点において右建物の南面の約二分の一程度の部分が日蔭であり、午前一〇時の時点では南面の六分の一程度の部分が日蔭となり(建物全体としては二分の一程度の部分が日蔭になる)、午前一一時以降はほぼ完全な日照がある(建物全体としては北東隅のわずかな部分が日蔭となっている)。

(二)  本件マンションを五階建とした場合に申請人らの建物に対する日照阻害は冬至においてはつぎのとおりである。

申請人会社の寄宿舎においては午前九時の時点では建物全体が日蔭であり、午前一〇時の時点で日蔭部分は右建物の二分の一程度となり、午前一一時以降は完全な日照がある。

一方申請人徳島の居住する建物においては午前九時の時点において右建物の南面約二分の一程度の部分が日蔭であり、午前一〇時の時点では右建物の南面の約六分の一程度の部分が日蔭であり、午前一一時以降は完全な日照がある(なお建物全体としては北東隅のわずかな部分が日蔭である)。

4  本件土地は西公園参道沿にあり、北方の西公園付近から南方に向けてゆるやかに傾斜している地形にあり、本件土地および申請人らの建物の敷地およびその付近一帯は昭和四八年七月三〇日福岡市告示第一〇九号により指定された一五メートル高度地区に属し、昭和四八年八月一〇日福岡県告示第八八六号により指定された住居地域に属するものである(なお従前も住居地域に属していた)。本件土地の四囲の現状は北方には西公園風致地区を、東南方には商業地域を、西南方には二〇メートル高度地区の住居地域を控え、本件土地の近隣街区域はおおむね一、二階建建物の立並ぶ低層家屋住宅地であるが、本件土地から道路をへだてた東南方には四階建の建物があり、本件土地東側道路南方沿道には五階建のアパートがあり、北方には三階建および五階建のアパートなどがある。

5  被申請人佐藤工業は昭和四七年一一月一〇日福岡市建築審査課に対して本件マンションの建築確認申請手続をなし、他方本件マンション建築にともなう近隣住民に対する日照阻害問題について話し合いをするため当初本件土地の北側居住者であった大塚、井上、松永の三名に対して説明会を申入れたがまもなく本件土地の近隣住民らによって西公園アパート新築反対会が結成されたので(なおこの反対会には申請人徳島、申請人会社の寄宿舎の寮母吉良も参加していた)、同反対会および反対会から問題解決の斡旋依頼を受けた松永市会議員らを交えて昭和四七年一二月二三日、昭和四八年一月二七日、同年二月二二日、同年三月五日、同月二〇日、同月三一日に話し合いをもち、右話し合いの際、同被申請人は本件マンションの設計図、配置図、平面図、立体図、本件マンション完成による日照影響図等を示して本件マンション建築にともなう日照阻害等の解決策を話し合った(なお右昭和四七年一二月二三日、昭和四八年二月二二日には申請人会社寄宿舎の寮母吉良も出席して話し合いに参加した)。その後、昭和四八年六月七日に反対会と同被申請人の間において反対会は被申請人佐藤工業の本件マンション建築工事について同意するまた右工事について一切異議を申立てない旨の和解が成立した。一方本件マンション建築により日照阻害が最も大きいと予想された本件土地の北側居住者である大塚、井上、松永らに対し同被申請人は換地を斡旋したうえ右三名の宅地を三、三〇〇万円で買取りその立退費用を負担することで話合いがまとまった。(なお昭和四八年七月二三日に大塚宅、同年八月四日に松永宅、同月九日に井上宅の立退が完了した)かくして昭和四八年六月一一日本件マンションの建築確認申請が認可され、同被申請人は、同月一九日本件マンションの建築工事に着工した。

ところが、昭和四八年七月に至り申請人会社の馬場総務課長が被申請人佐藤工業を訪れ、本件マンション新築工事に関する日照問題解決のいきさつについての事情を聴取し、その後同年八月上旬ごろ、申請人らから同被申請人に対して七階建の予定である本件マンションが完成した場合申請人らの建物に対する日照阻害が著しいので五階建に設計変更して欲しい旨の申入があり、同被申請人は申請人らの建物に対する日照が冬至においても四時間以上確保されることおよび本件マンションの建築工事が相当進んでいる現在設計変更はできない旨解答し結局物別れになった。更に同月下旬ごろ、同被申請人は申請人らから申請人徳島宅敷地の買取方の申入れを受けたのでその土地代価について申請人らに尋ねたが申請人らは具体的価額を示さないまま現在に至っている。

二  ところで、日照、通風等の自然の恵を享受することは健康で快適な生活を送るためには欠くことのできない条件であることはいうまでもないが、個人が享受する日照等の利益は個人が社会において共同生活を営む以上、他人の権利行使によって或る程度これが妨害されることはやむをえないものがあり、右妨害の程度が社会通念上受忍限度を著しく超えていると認められる場合にはじめて右妨害の排除を求めうるものといわなければならない。そこで本件の場合社会通念上受忍すべき限度を著しく超えているものか否かの点について前記認定事実を基礎にして検討してみる。

本件七階建マンションが完成した場合冬至における申請人ら所有建物に対する日照阻害は、午前九時以降の時間帯において、申請人会社の寄宿舎の場合およそ二時間、申請人徳島の住居の場合およそ一時間余りであって、午後三時までの間には前者はおよそ四時間、後者の場合およそ五時間の日照利益を享受し得るのであり、これに午後三時以降も他に日照を妨げる障害物がなく、より大きい日照利益を享受し得る事情をも併せ考慮すると、本件マンションによる右日照阻害の程度をもって受忍限度を著しくこえるものとは到底断じがたい。なお申請人ら主張のごとく、午前中二時間の日照を完全に確保すべきことが、右受忍限度判定の最低基準たるべきものと解することはできない。しかして、右日照阻害の程度に照らし、採光の面においても、それが著しく申請人らの生活を阻害するものとは考えられず、また前示認定の建物の位置関係、周辺の地形等に鑑みると、本件マンションにより受忍限度をこえる通風阻害があるとも考えられない。

ところで、本件土地は昭和四八年七月三〇日福岡市告示第一〇九号により指定された一五メートル高度地区に属しているものであり、昭和四八年八月一〇日福岡県告示第八八六号により建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇パーセントと定められているところから、本件マンションは右新基準に照らすと、高度、建ぺい率、容積率のいずれの点においても制限基準をこえ、建築確認申請が認可され右告示前の昭和四八年六月一九日に着工されたところから、建築基準法三条二項により右告示の適用は除外されるものであるとはいえ、右住居地域にふさわしくない建物であるといえるであろう。

しかしながら被申請人佐藤工業は本件マンション建築工事をなすにあたり近隣住民に対する日照阻害問題について話し合いをもったり、本件マンションが完成した場合に最も日照阻害程度が大きいと予想された本件土地の北側居住者大塚、井上、松永の三名に対し換地を斡旋しその敷地を買取るなどをして近隣居住者の日照問題について配慮していたことが窺われ、所管行政庁の指導のもとに、付近住民によって組織された本件マンションの建築に反対する会と和解し、建築についての付近住民の了解を取り付けたうえ建築確認を得て着工している。そして、かかる事実関係に照らすと被申請人らが申請人らの建物に対する日照阻害について害意を有していたものとは認められない。

さらに本件マンションを五階建にした場合において申請人らの蒙る日照阻害時間は七階建の場合のそれと比較してみると申請人徳島の居宅についてはほとんど差がなく、申請人会社の寄宿舎については日照時間が三〇分長くなるだけであるところ、他方本件マンションが七階建から五階建に変更されたとすると、被申請人らの蒙る損害は経験則上莫大な額に上ることが容易に推認される。

以上のほか、本件マンションによる日照等の生活阻害は前示のとおりであることや、本件土地が住居地域にあるとはいえ、付近に四、五階の建物が存すること等諸般の事情を考慮すると、前記新基準に抵触する建物であるとの一事から、それが申請人らに対し受忍限度をこえる被害を与えるとはいいがたい。

その他、本件マンションの建築によって申請人らに対し受忍限度を超える日照等の被害を与えるとの疎明はない。

三  よって、申請人らの本件仮処分申請は被保全権利について疎明がないこととなり、又疎明に代る保証を立てて本件仮処分申請を認容することも適当でないからいずれも却下することとし、申請費用につき民事訴訟法九三条一項本文、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 前田一昭 裁判官 酒匂武久 仲宗根一郎)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例